生成AI開発のPoCとは?進め方と本番導入につなげる5つの成功ポイント
この記事でわかること
- 生成AI開発におけるPoCの基本概念と、従来のIT検証との違い
- 社内FAQ対応やカスタマーサポートなど、PoCに適した活用領域
- 目標設定から評価までの具体的な進め方5ステップ
- PoC止まりを防ぎ、本番導入につなげるための成功ポイント
生成AIの業務活用が加速する中、多くの企業が導入検討を進めています。しかし、ChatGPTをはじめとする生成AIは従来のITシステムとは特性が大きく異なり、「導入してみたものの期待した効果が得られなかった」という声も少なくありません。そこで注目されているのがPoC(概念実証)というアプローチです。
本記事では、生成AIのPoCとは何か、なぜ必要なのかを基礎から解説し、具体的な進め方や評価指標の設定方法、そして「PoC止まり」に陥らず本番導入へつなげるための成功ポイントまで、実務担当者が押さえておくべき情報を網羅的にお伝えします。

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目次
生成AI開発におけるPoCの基礎知識

生成AIを業務に導入する際、いきなり本格運用を始めることは大きなリスクを伴います。技術的な実現可能性や業務との適合性を見極めないまま多額の投資を行うと、「想定していた効果が出なかった」「現場で使いこなせなかった」という事態に陥りかねません。そこで重要になるのがPoC(概念実証)です。ここでは、PoCの基本的な意味と生成AI特有の検証ポイントについて詳しく解説します。
PoCとは概念実証のこと
PoCとは「Proof of Concept」の略で、日本語では「概念実証」と訳されます。新しい技術やアイデアが実際の業務環境で期待どおりに機能するかを、本格的な開発に着手する前に小規模な検証を通じて確認するプロセスです。生成AIの文脈では、特定の業務課題に対してAIを試験的に適用し、出力の精度や使い勝手、費用対効果などを評価します。
PoCを実施することで、本格導入前に技術的な実現可能性とビジネス上の価値を見極められます。また、PoCの結果は単なる技術検証にとどまらず、経営層への投資判断材料としても重要な役割を果たします。ガートナー社の調査によれば、生成AIプロジェクトの30%以上がPoC後に断念されると予測されており、適切な目標設定と評価基準の策定がPoCの成否を分けるポイントとなっています。
生成AIのPoCが従来のIT検証と異なる点
従来のITシステムは、同じ入力に対して常に同じ出力を返す決定的な動作をします。たとえば、データベースへのクエリは毎回同じ結果を返し、計算処理は常に同じ答えを出力します。一方、生成AIは確率的なモデルであり、従来とは異なる特性を持っています。
- 出力の変動性:プロンプトの書き方や学習データ、パラメータ設定によって出力が変動し、同じ質問でも微妙に異なる回答が返ってくることがある
- ハルシネーションのリスク:もっともらしいが事実と異なる情報を生成する現象が発生するため、出力の品質評価には必ず人間による確認が必要
- プロンプト設計の難しさ:性能を最大限に引き出すには最適なプロンプトを見つける必要があるが、そのためには多くの試行錯誤が求められる
- 工数見積もりの困難さ:上記の特性から、検証期間や工数の見積もりが従来のIT検証よりも難しくなる
このため、従来のシステムテストのように「正解か不正解か」を単純に判定することができず、評価手法自体もPoC段階で確立する必要があります。
生成AIにPoCが必要とされる理由
生成AIは期待値が高い一方で、実務に活用するには想像以上の準備と工夫が求められます。「生成AIを導入すれば自動的に業務が効率化される」という誤解のまま進めると、精度不足やセキュリティ問題に直面し、プロジェクトが頓挫するケースも少なくありません。
PoCを通じて実際の業務データで検証することで、導入後の「想定と違った」という失敗を防げます。具体的には、自社のデータで求める精度が出るのか、現場の業務フローに組み込めるのか、運用コストは許容範囲内かといった点を事前に確認できます。また、検証結果を数値化しておくことで、経営層への説明材料としても活用でき、投資判断の根拠として機能します。生成AIは「使える/使えない」の二択ではなく、「継続して使う価値があるか」を判断することが最終目的であり、PoCはその判断材料を集めるための重要なプロセスなのです。
生成AI開発でPoCを活用できる主な領域

生成AIは幅広い業務領域で活用が期待されていますが、PoCの段階では効果を測定しやすく、かつ業務インパクトの大きい領域から着手するのが効果的です。すべての業務に一度に導入しようとするのではなく、成功確率の高い領域で小さな成功体験を積み重ねることが、全社展開への近道となります。ここでは、多くの企業でPoCの対象となっている代表的な3つの領域を紹介します。
社内ナレッジ共有・FAQ対応
社内に蓄積されたマニュアルや規程、過去の事例、技術文書などのナレッジを生成AIで検索・回答できる仕組みは、PoCの代表的なユースケースです。従来のキーワード検索では、適切な検索語を思いつかないと必要な情報にたどり着けませんでしたが、生成AIを活用すれば自然言語で質問するだけで適切な回答を得られます。
特にRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)技術を活用することで、社内文書に基づいた精度の高い回答が可能になります。RAGは、質問に関連する社内文書を検索し、その内容を参照しながら回答を生成する仕組みです。これにより、生成AIが学習していない自社固有の情報についても正確に回答でき、ハルシネーションのリスクも低減できます。総務や人事、情報システム部門への定型的な問い合わせを削減し、担当者の負担軽減と回答スピードの向上が期待できます。
RAGについて下記の記事も合わせてご覧ください。
RAGとは?仕組みやメリット、活用法、作り方を分かりやすく解説
カスタマーサポート・問い合わせ対応
顧客からの問い合わせに対して、生成AIが一次対応を行うチャットボットもPoCで検証されることの多い領域です。よくある質問(FAQ)への自動回答や、問い合わせ内容の分類・要約によって、オペレーターの対応時間を大幅に短縮できます。24時間365日対応が可能になることで、顧客満足度の向上にもつながります。
ただし、顧客対応では誤った情報を伝えるリスクが特に高いため、PoCの段階で回答精度や不適切な応答の発生率を十分に検証することが重要です。具体的には、どのような質問パターンで誤回答が発生しやすいか、人間のオペレーターへのエスカレーション(引き継ぎ)をどの条件で行うべきかといった点を、PoCを通じて明確にしておく必要があります。また、個人情報の取り扱いに関するルールや、生成AIが回答できない範囲の設定も、PoC段階で整理しておくべき項目です。
コンテンツ生成・ドキュメント作成
報告書、議事録、マニュアル、メール文面、提案書などのドキュメント作成を生成AIで支援する取り組みも、PoCの対象として適しています。定型的な文書の下書き作成や、データをもとにしたレポート生成などで、作成時間の大幅な短縮が見込めます。
PoCでは、生成された文書の品質(正確性、読みやすさ、企業トーン・マナーとの整合性)や、必要な修正にかかる時間を計測することで、実際の業務効率化の効果を定量的に評価できます。特に、文書作成に多くの工数を費やしている部門や、定型文書の作成頻度が高い業務では、効果を実感しやすい領域といえます。また、生成AIが作成した文書を人間がレビュー・修正するワークフローを確立することで、品質を担保しながら効率化を実現できます。
生成AI開発のPoCのメリットと注意点

生成AIのPoCには多くのメリットがありますが、進め方を誤ると期待した成果を得られないこともあります。「PoCを実施すること」自体が目的化してしまい、本番導入につながらないケースも少なくありません。ここでは、PoCを実施することで得られる主なメリットと、陥りやすい注意点について解説します。
本格導入前にリスクを最小化できる
生成AIのPoCを実施する最大のメリットは、本格導入前に技術的・運用的なリスクを洗い出せることです。小規模な検証の段階で、精度の問題やシステム連携の課題、運用コストの見通し、現場での受容性などを把握できます。本番環境でいきなり問題が発覚した場合と比べて、修正や方針転換にかかるコストを大幅に抑えられます。
生成AIのPoC費用は、一般的に100万円〜500万円程度、期間は2〜3ヶ月が目安とされています。この投資によって、本格開発(数千万円〜1億円規模になることもある)の失敗リスクを事前に低減できると考えれば、費用対効果は十分にあるといえるでしょう。また、PoCで得られた知見は、同様の技術を他部門に展開する際にも活用でき、全社的なAI導入のリスク軽減と効率化につながります。
経営層への説得材料として活用できる
生成AIの導入には、システム開発費用や運用コスト、人材育成への投資が必要です。経営層の承認を得るためには、「なんとなく便利そう」という曖昧な説明ではなく、投資に見合う効果があることを具体的な数値で示す必要があります。PoCを通じて「問い合わせ対応時間が30分から15分に短縮された」「文書作成工数が月40時間削減された」「顧客満足度スコアが10ポイント向上した」といった定量的なデータを取得することで、説得力のある提案資料を作成できます。
「やってみなければわからない」という曖昧な状態から脱却し、根拠に基づいた意思決定を促せる点もPoCの重要なメリットです。また、PoCの過程で現場の声を収集しておくことで、「現場も導入を望んでいる」という定性的な説得材料も併せて提示できます。経営層にとっては、リスクを最小化しながら効果を検証できるPoCは、投資判断の重要な材料となります。
目的が曖昧だと効果測定ができない
PoCの注意点として最も重要なのは、目的やKPI(重要業績評価指標)が曖昧なまま検証を始めてしまうことです。「とりあえず生成AIを試してみたい」「他社もやっているから」という動機だけで進めると、何をもって成功とするかの基準がなく、結果の評価ができません。PoCが「成功」したのか「失敗」したのか判断できなければ、本番導入に進むべきかどうかの意思決定もできなくなります。
たとえば「問い合わせ対応時間を30分から15分に短縮する」「回答精度を90%以上にする」のように、具体的な数値目標を設定することが不可欠です。また、目的が不明確なPoCを繰り返すと、現場の協力が得られなくなる「PoC疲れ」を引き起こします。多くの企業が複数のPoCを実施しているものの、本番化に至るプロジェクトは限定的であるという現状があり、本来有望なプロジェクトまで頓挫するリスクがあります。PoCは「成功させること」ではなく、「続行するか、中止するか、再設計するかを決めること」が本来のゴールであることを認識しておきましょう。
生成AI開発PoC特有のリスクと事前対策

生成AIのPoCでは、従来のシステム検証とは異なる特有のリスクに対処する必要があります。これらのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じておくことで、PoCの成功確率を高められます。特に、ハルシネーション、セキュリティ、プロンプト設計の3つは、生成AI導入で最も注意すべきポイントです。
ハルシネーション(誤情報生成)への対処法
ハルシネーションとは、生成AIがもっともらしいが事実と異なる情報を出力する現象です。生成AIは学習データに基づいて「それらしい」回答を生成しますが、事実確認を行っているわけではありません。特に社外向けの顧客対応や、経営判断に関わる業務で誤情報が出力されると、信用失墜や法的リスクにつながりかねません。
対処法としては、まずRAG技術を活用して信頼できる情報源(社内文書やデータベース)に基づいた回答を生成させることが有効です。RAGを使えば、回答の根拠となった文書を提示できるため、ユーザーが内容を検証することも可能になります。また、AIの出力に対して必ず人間が確認するプロセス(ヒューマン・イン・ザ・ループ)を組み込み、完全な自動化は段階的に進めるアプローチも重要です。PoCの段階でハルシネーションの発生率を計測し、業務上許容できる範囲かどうかを評価しておきましょう。
下記の記事も合わせてご覧ください。
生成AIのハルシネーション対策とは?原因や対策、プロンプトを紹介
機密情報の取り扱いとセキュリティ対策
生成AIをPoCで試す際、社内の機密情報や個人情報をどこまで使用するかは慎重に判断する必要があります。外部のAPIサービス(OpenAIやAnthropicなど)を利用する場合、入力データがどのように処理・保存されるかを確認し、情報漏洩のリスクを評価しなければなりません。特に、入力データがAIモデルの学習に使用される可能性があるサービスでは、機密情報の入力は避けるべきです。
対策としては、PoCの段階では匿名化・マスキング処理を施したデータを使用する方法があります。個人名を「A氏」「B社」に置き換える、具体的な金額を「〇〇円」に変更するといった処理を行います。また、セキュリティ要件が厳しい場合は、オンプレミス環境や閉域網(プライベートクラウド)での実行環境を検討することも選択肢です。いずれの場合も、セキュリティ部門や法務部門と連携し、自社のセキュリティポリシーに準拠した運用ルールを事前に策定しておくことが重要です。PoC段階でセキュリティの問題をクリアしておかないと、本番化の際にガバナンス部門からNGが出て頓挫するケースも多くあります。
下記の記事では生成AIの情報漏洩について詳しく解説しております。
なぜ生成AIの情報漏洩は起こるのか?事例や有効な対策を詳しく紹介!
プロンプト設計の試行錯誤に必要な工数を見積もる
生成AIの性能を最大限に引き出すには、適切なプロンプト(AIへの指示文)設計が欠かせません。しかし、最適なプロンプトを見つけるまでには多くの試行錯誤が必要であり、想定以上の工数がかかることがあります。「AIに質問すれば正しい答えが返ってくる」という期待で始めると、プロンプトの調整に膨大な時間を費やすことになりかねません。
PoCの計画段階で、プロンプトの調整に必要な時間を十分に見積もっておくことが重要です。一般的には、PoCの全工程の20〜30%程度をプロンプト調整に割り当てることが推奨されます。また、プロンプトエンジニアリングの知見を持つ人材をチームに確保するか、外部の専門家の支援を受けることも検討しましょう。さらに、プロンプトの改善履歴(どのような指示でどのような結果が得られたか)を記録しておくことで、ノウハウの蓄積と再現性の確保にもつながります。この記録は、本番導入後の運用や、他のユースケースへの展開にも活用できる貴重な資産となります。
▼参考記事
プロンプトエンジニアリングとは?効果的に使うための原則から7つの実践テクニックを解説!
生成AI開発のPoCの進め方を5ステップで解説

生成AIのPoCを効率的に進めるためには、明確なプロセスに沿って実行することが重要です。場当たり的に進めると、時間とコストを浪費するだけでなく、得られた結果を次のアクションにつなげることも難しくなります。ここでは、目標設定から評価・次のアクションまでの5つのステップを解説します。
ステップ1:目標設定と課題の明確化
PoCの最初のステップは、解決したい業務課題と達成すべき目標を明確にすることです。「業務を効率化したい」「AIを活用したい」という抽象的な目標ではなく、「問い合わせ対応時間を50%削減する」「文書作成にかかる工数を月20時間削減する」「回答精度を85%以上にする」のように、具体的な数値目標を設定します。
この段階で重要なのは、経営層と現場の認識を統一しておくことです。経営層が期待する効果と、現場が求める機能にズレがあると、PoCが成功しても本番導入に進めないことがあります。また、成功・失敗の判断基準となるKPIを事前に関係者間で合意しておくことも重要です。評価指標が曖昧なままでは、検証結果をどう解釈すべきか議論になり、意思決定が遅れる原因となります。
ステップ2:データの確認と準備
生成AIの精度は、学習させるデータや参照させるデータの質と量に大きく左右されます。PoCを開始する前に、既存のデータを棚卸しし、必要な情報が揃っているかを確認しましょう。PoCで活用できるデータの例としては、以下のようなものがあります。
- 社内FAQシステムに蓄積されたQ&Aデータ
- 業務マニュアルや社内規程などの文書
- 過去の問い合わせ履歴やチャットログ
- 製品・サービスに関する技術文書
- 過去の報告書やレポートのテンプレート
不足しているデータがあれば、収集・整備の計画を立てます。データの形式がバラバラの場合は、AIが処理しやすい形式に統一する前処理も必要です。また、個人情報や機密情報が含まれる場合は、マスキング処理やアクセス制限などのセキュリティ対策も併せて検討します。データの準備に想定以上の時間がかかることも多いため、PoCのスケジュールには余裕を持たせておくことが大切です。データ準備だけで1〜2ヶ月かかるケースも珍しくありません。
ステップ3:AI技術・ツールの選定
目標と利用可能なデータが明確になったら、適切なAI技術やツールを選定します。生成AIにはテキスト生成、画像生成、コード生成など様々なタイプがあり、さらに提供形態もSaaS型、API型、オンプレミス型と多岐にわたります。業務内容やセキュリティ要件に合ったものを選ぶ必要があります。
選定時に比較検討すべき主な観点は以下のとおりです。
- 精度:日本語対応の品質、専門用語への対応力
- 応答速度:ユーザーがストレスなく使えるレスポンスタイム
- 導入コスト:初期費用、月額費用、API従量課金の見込み
- カスタマイズ性:自社データでのファインチューニング可否
- セキュリティ:データの取り扱い方針、オプトアウト設定の有無
- サポート体制:導入支援、トラブル対応の充実度
複数のモデルやサービスを候補として挙げ、PoCの中で比較検証を行うアプローチも有効です。最初から1つに絞り込むのではなく、2〜3種類を並行して試すことで、自社に最適な選択肢を見極められます。
ステップ4:プロトタイプ作成と検証の実施
選定した技術をもとに、必要最小限の機能を持つプロトタイプを作成します。プロトタイプは完璧を目指す必要はなく、検証に必要な機能が動作すれば十分です。「動くものを早く作り、改善を繰り返す」というアジャイル的なアプローチが、生成AIのPoCには適しています。実際の業務に近い条件でテストを行い、精度や応答速度、使い勝手などを評価します。
この段階で特に重要なのは、現場の担当者にも実際に使ってもらい、フィードバックを収集することです。技術的には優れていても、現場の業務フローに合わなければ活用されません。「使いにくい」「期待した回答が返ってこない」といった声を早期に拾い、プロンプトの調整や機能改善に反映させます。技術検証と並行して、運用コストや導入後の保守体制についても検討を進めておくと、次のステップへの移行がスムーズになります。
ステップ5:評価と次のアクションへの接続
PoCの最終段階では、設定したKPIに対する達成度を評価します。精度、応答速度、コスト削減効果、ユーザー満足度などを定量的に測定し、目標をどの程度達成できたかを確認します。同時に、検証を通じて発見された運用上の課題や改善点も整理しておきます。
評価結果をもとに、本番導入に進むか、追加検証を行うか、あるいは撤退するかを判断します。重要なのは、PoCの結果を「成功」「失敗」の二択で捉えないことです。目標を100%達成できなくても、80%の達成度で業務価値があると判断できれば本番導入に進む選択肢もあります。逆に、技術的には動作しても業務への適合性が低ければ、別のアプローチを検討するという判断も合理的です。PoCで得られた知見は、次のプロジェクトにも活かせる貴重な資産となるため、成功・失敗にかかわらず、学びを記録・共有することが重要です。
生成AI開発のPoCで設定すべき評価指標と撤退判断の基準
PoCの成否を客観的に判断するためには、適切な評価指標を設定し、撤退の判断基準も事前に明確にしておく必要があります。評価基準が曖昧なままでは、「なんとなくうまくいった」「なんとなくダメだった」という感覚的な判断になり、次のアクションにつなげることができません。ここでは、評価の軸と撤退判断のサイン、そして結果を社内に報告する際のポイントを解説します。
精度・応答速度・コストの3軸で評価する
生成AIのPoCを評価する際は、精度・応答速度・コストの3つの軸でバランスよく検証することが重要です。どれか1つの軸だけで判断すると、本番運用で問題が発生するリスクがあります。
| 評価軸 | 評価内容 | 指標の例 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 精度 | 業務要件を満たす出力が得られるか | 正答率、ハルシネーション発生率、修正が必要だった割合 | 正答率85%以上、ハルシネーション率5%以下 |
| 応答速度 | ユーザーがストレスなく利用できるか | 平均レスポンスタイム、タイムアウト発生率 | チャットボット:5秒以内、文書生成:30秒以内 |
| コスト | 投資に見合う効果が得られるか | API利用料、インフラ費用、運用人件費、削減工数 | 投資回収期間12ヶ月以内、ROI 150%以上 |
これら3つの軸のバランスを見ながら、本番導入の可否を判断しましょう。精度が高くても応答が遅すぎれば現場で使われず、コストが安くても精度が低ければ業務に支障をきたします。
撤退を判断すべき3つのサイン
PoCの途中または終了時に、以下のサインが見られた場合は撤退を検討すべきです。
- 精度が目標未達で改善見通しがない:プロンプトの調整やデータの追加で改善できる見込みがあれば追加検証の余地があるが、根本的な技術的制約がある場合は、そのユースケースでの導入は困難と判断する
- 運用コストが想定を大幅に超過:API利用料が予想以上に高額になる、人間によるレビュー工数が削減効果を上回るなど、費用対効果が合わない状態
- 現場の受容性が低い:現場の担当者がツールを使いこなせない、業務フローに組み込めない、「使いたくない」という声が多いなど、技術的には優れていても活用されない状態
撤退は失敗ではなく、リソースを有効活用するための合理的な判断であることを認識しておきましょう。「このユースケースでは効果が出ない」という知見を得ること自体に価値があります。
評価結果を社内報告書にまとめるポイント
PoCの評価結果を社内報告書にまとめる際は、定量的なデータと定性的な評価の両方を盛り込みます。報告書は経営層から現場担当者まで幅広い読者を想定し、専門用語を避けてわかりやすい表現を心がけることが大切です。報告書に含めるべき主な項目は以下のとおりです。
- KPI達成度:設定した目標に対する達成状況を数値で示す(例:「目標:応答時間50%削減」「結果:45%削減(達成率90%)」)
- 発見された課題と改善策:検証を通じて判明した問題点と、それに対する具体的な対応策
- 本番導入のロードマップ:導入に進む場合のスケジュール、必要予算、体制
- 追加検証が必要な項目:PoC期間内に検証しきれなかった事項
- 撤退の場合の理由と知見:撤退を判断した根拠と、今後に活かせる学び
PoCの結果を「やりっぱなし」にせず、組織の学びとして蓄積することが重要です。
生成AI開発のPoCを成功に導く5つのポイント

生成AIのPoCを単なる技術検証で終わらせず、本番導入につなげるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。多くの企業がPoC段階で停滞している現状を踏まえ、ここでは成功事例から導き出された5つのポイントを紹介します。
業務KPIと紐づけた目標を設定する
PoCの目標は、必ず業務上のKPIと紐づけて設定することが重要です。「AIの精度が高い」「技術的に動作する」だけでは、経営層への説得材料として不十分です。「顧客対応の平均処理時間を30分から15分に短縮する」「月間の文書作成工数を40時間削減する」「問い合わせの一次解決率を60%から80%に向上させる」のように、業務成果に直結する指標を設定しましょう。
業務KPIと紐づけることで、PoCの成果が事業にどれだけ貢献するかを明確に示せます。これにより、「技術的には面白いが、ビジネス価値が不明」という状態を避けられます。また、現場の担当者にとっても、自分たちの業務改善につながることが実感でき、PoCへの協力を得やすくなります。目標設定の際には、現場の担当者も交えて議論し、達成可能かつチャレンジングな水準を設定することがポイントです。
現場担当者を巻き込んだ体制を構築する
生成AIのPoCは、IT部門やDX推進部門だけで進めても成功しません。実際にツールを使うことになる現場の担当者を初期段階から巻き込み、要件定義や検証に参加してもらうことが不可欠です。現場の担当者は、業務の実態や細かな課題を最も理解しており、AIが本当に役立つかどうかを判断できる立場にあります。
また、PoCの段階から関与することで、現場担当者自身がAIの特性や限界を理解でき、本番導入後の定着もスムーズになります。「上から降ってきたツール」ではなく、「自分たちも一緒に作ったツール」という当事者意識が、活用促進の大きな力となります。理想的な体制は、経営層(投資判断)、IT部門(技術検証)、現場担当者(業務適合性の評価)が三位一体となってプロジェクトを推進する形です。定期的な進捗共有の場を設け、各立場からの意見を反映させながら進めましょう。
スモールスタートで始めて段階的に拡大する
最初から大規模なPoCを計画すると、準備に時間がかかり、失敗した場合のダメージも大きくなります。また、検証範囲が広すぎると、何が原因で成功・失敗したのかの分析も難しくなります。まずは特定の業務や部門、限定的なユースケースに絞ってスモールスタートし、成功体験を積み重ねてから段階的に拡大するアプローチが効果的です。
たとえば、全社の問い合わせ対応を対象にするのではなく、まずは「人事部門への福利厚生に関する問い合わせ」に限定してPoCを実施するといった形です。小さな成功事例を社内に共有することで、他部門への展開もスムーズになります。また、スモールスタートであれば、うまくいかなかった場合の軌道修正も容易であり、学びを次のステップに活かしやすくなります。「小さく始めて、大きく育てる」という姿勢が、生成AI導入の成功確率を高めます。
本番導入までのロードマップを事前に描く
PoCを開始する前に、本番導入までのロードマップを描いておくことが重要です。PoCが成功した場合に、どのようなステップで本番環境に移行するのか、必要な予算や人員、スケジュールを事前に検討しておきます。具体的には、PoC終了後のシステム開発期間、本番環境の構築、社内展開のための教育・研修、運用体制の整備といった項目を洗い出します。
ロードマップがないと、PoCが成功しても「次に何をすればいいかわからない」という状態に陥り、せっかくの成果が活かされないまま時間だけが過ぎていきます。これが「PoC止まり」の典型的なパターンです。経営層との合意形成の際にも、PoC後の見通しを示すことで、プロジェクトへの理解と継続的な支援を得やすくなります。ロードマップは詳細である必要はありませんが、少なくとも「PoC成功後、3ヶ月で本番環境を構築、6ヶ月後に全社展開開始」といった概略のスケジュールは事前に描いておきましょう。
自社リソースと外部専門家を適切に使い分ける
生成AIのPoCを進めるにあたり、すべてを自社で完結させるか、外部の専門家の力を借りるかは重要な判断ポイントです。自社にAIやデータサイエンスの知見を持つ人材がいる場合は、内製でPoCを進めることでノウハウの蓄積につながります。また、自社の業務や課題を深く理解している社内メンバーがリードすることで、業務に適合したソリューションを設計しやすくなります。
一方、専門人材が不足している場合や、短期間で成果を出す必要がある場合は、外部の開発会社やコンサルタントの支援を受けることが有効です。外部の専門家は最新の技術動向や他社事例に精通しており、自社だけでは思いつかないアプローチを提案してくれることもあります。また、PoCを効率的に進めるためのノウハウを持っており、試行錯誤の時間を短縮できます。重要なのは、外部に「丸投げ」するのではなく、自社のメンバーも積極的に参加し、ノウハウを吸収する姿勢を持つことです。外部パートナーを選ぶ際は、生成AI領域での実績、自社業界への理解度、伴走型のサポート体制があるかどうかを確認しましょう。
下記の記事も合わせてご覧ください。
・生成AI内製化の進め方を解説!5つのステップと失敗しないためのポイント
・生成AIコンサルティング会社おすすめ16選!選び方と各社特徴を解説
・生成AI開発企業おすすめ35選!選び方と各社特徴、費用を解説
まとめ:生成AI開発のPoCを本番導入につなげよう
生成AIのPoCは、本格導入の成否を左右する重要なプロセスです。成功のためには、業務KPIと紐づけた明確な目標設定、経営層から現場まで巻き込んだ体制構築、そしてスモールスタートからの段階的な拡大が欠かせません。
また、ハルシネーションやセキュリティといった生成AI特有のリスクを理解し、事前に対策を講じておくことも重要です。PoCの費用は100万円〜500万円、期間は2〜3ヶ月が一般的な目安ですが、この投資によって本格開発の失敗リスクを大幅に低減できます。PoCで得られた成果と課題を適切に評価し、本番導入までのロードマップに沿って着実に進めていくことで、生成AIを現場で活きる技術として定着させられます。日本企業の多くがPoC段階で停滞している現状を打破し、単なる検証で終わらせず、ビジネス価値を生み出す本番導入へとつなげていきましょう。

【低単価で生成AI内製化支援が可能です】
株式会社アドカルは中小企業向けの生成AIコンサルティング・開発に強い企業です。
「生成AIの内製化をすすめたいけど、費用が高すぎて手がでない」
「業務効率を改善したい」
「自社の業務にAIエージェントを取り入れたい」
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