転移学習とファインチューニングの違いを解説!選び方と活用例
この記事でわかること
- 転移学習とファインチューニングの定義
- 転移学習とファインチューニングのそれぞれの違い
- 比較表で見る特徴
- 蒸留(ディスティレーション)との比較
- Pythonでの実装ガイド
機械学習モデルの開発では、膨大なデータと時間が必要になりがちです。そんな課題を解決する手法として注目されているのが「転移学習」と「ファインチューニング」です。
この記事では、両者の明確な違いから適切な使い分け方を徹底解説します。限られたリソースで効率的にAIモデルを構築したい方必見の内容です。
目次
転移学習とファインチューニングとは?初心者でも分かる基本概念

ディープラーニングの世界で大きな成果を上げるには、通常は膨大なデータセットと長時間の学習が必要です。しかし、「転移学習」と「ファインチューニング」を活用することで、限られたリソースでも高性能なAIモデルを構築できるようになります。これらの技術は、既存の知識を効率的に再利用する賢い方法として注目されています。
転移学習の定義と基本的な仕組み
転移学習とは、あるタスク向けに事前学習されたモデルの知識を、別の新しいタスクに転用する手法です。例えば、大量の画像で訓練された画像認識モデルの知識を、医療画像の診断など特定分野の画像認識に活用することができます。
転移学習の基本的な仕組みは、既存の学習済みモデルの出力層を取り除き、新しいタスク用の層を追加するというものです。このとき、元のモデルのパラメータはそのまま(凍結して)利用し、新しく追加した層だけを学習させます。これは、人間が過去の経験から得た知識を新しい問題解決に応用するのと似ています。
ファインチューニングの定義と機械学習における役割
ファインチューニングは転移学習の発展形で、事前学習済みモデルのパラメータ全体(または一部)を、新しいタスク向けに微調整する手法です。
元のモデルを完全に固定せず、新たなデータセットで追加学習を行うことで、特定のタスクに対する精度を向上させます。
ファインチューニングが機械学習において重要な役割を果たすのは、モデルの汎用性と特定タスクへの適応性のバランスを取れる点です。大規模言語モデル(LLM)のような複雑なモデルでは、企業固有のデータでファインチューニングすることで、一般的な知識を保持しつつ、特定の業界や用途に特化させることができます。
なぜ今これらの技術が重要なのか
近年、転移学習とファインチューニングの重要性が高まっている理由は主に3つあります。
1つ目は、モデル開発の民主化です。GPTやBERTのような高性能な事前学習モデルが公開され、誰でも利用できるようになりました。これにより、高度なAI技術を持たない企業や個人でも、少ないデータと計算リソースで高品質なモデルを作れるようになりました。
2つ目は、データ収集の難しさへの対応です。特に専門領域や新規分野では十分な学習データを集めるのが困難ですが、転移学習を使えば少量のデータでも実用的なモデルを構築できます。
3つ目は、計算コストの削減です。モデルを一から学習させるのではなく、既存の知識を活用することで、開発時間とコストを大幅に削減できます。また、環境負荷の観点からも、計算リソースを節約できる点が評価されています。
転移学習とファインチューニングの5つの違い

転移学習とファインチューニングは似ている部分もありますが、実際には目的や方法において重要な違いがあります。
ここでは、両者の違いを5つの観点から明確に解説します。これらの違いを理解することで、プロジェクトに最適な手法を選択できるようになるでしょう。
学習プロセスとパラメータ更新方法の違い
転移学習では、事前学習済みモデルのパラメータを固定(凍結)したまま、新たに追加した層のパラメータのみを学習します。
元のモデルの知識はそのまま保持され、新しい出力層だけが調整されます。例えるなら、既製の部品をそのまま使って新しい製品を作るようなものです。
一方、ファインチューニングでは、事前学習済みモデルのパラメータも含めて、モデル全体(または下位層を除く一部)を微調整します。元の知識を基盤としつつも、新しいタスクに合わせて全体を最適化するので、よりカスタマイズされた結果が得られます。
これは、既製品を土台にしながらも全体を調整して完成度を高める作業に似ています。
必要なデータ量と学習効率の違い
転移学習の大きな利点は、極めて少量のデータでも実用的なモデルを構築できる点です。事前学習済みの知識をそのまま活用するため、新しいタスクのデータが数百〜数千件程度でも十分な場合があります。これは、特に専門分野や希少なデータセットしか入手できない場合に非常に有効です。
ファインチューニングは、転移学習よりもやや多めのデータ(数千〜数万件程度)があると効果的です。モデル全体を再調整するため、より多くの例からパターンを学習できるとより高い性能を発揮します。
ただし、それでも一からモデルを学習させる場合と比べると、必要データ量は大幅に少なくて済みます。
モデル精度と汎化性能への影響
転移学習は、元のタスクと新しいタスクが類似している場合に高い性能を発揮します。
例えば、一般的な物体認識から犬種の分類など、関連性の高いタスクへの転用では優れた結果が得られます。しかし、まったく異なるドメインへの適用(例:画像認識から音声認識)では性能が制限される場合があります。
ファインチューニングは、特定のタスクに対する精度を高めることができます。モデル全体を調整するため、新しいドメインの特性に合わせて内部表現も最適化されます。ただし、過度な調整によって元の汎用性が失われたり、少ないデータセットで行うと過学習を起こしたりするリスクがあります。
適切な正則化技術の適用が重要です。
計算リソースと実行時間の要件
転移学習は計算効率が非常に高いのが特徴です。学習対象が追加した層のパラメータのみなので、一般的なPCやノートパソコンでも数分から数時間程度で学習が完了します。メモリ要件も比較的少なく、GPUがなくても実行可能なケースが多いです。
ファインチューニングは、モデル全体を更新するため、より多くの計算リソースと時間を必要とします。特に大規模モデル(BERT、GPTなど)のファインチューニングでは、適切なGPUやTPUが必要になることが多く、学習時間も数時間から数日かかる場合があります。ただし、学習率を小さく設定することで、必要な反復回数を減らすことも可能です。
適したユースケースと応用領域
転移学習は以下のようなケースに適しています
・データが極めて少ない(数百例程度)
・計算リソースが限られている
・迅速にプロトタイプを作成したい
・元のタスクと新しいタスクの類似性が高い
・モデルの基本的な特徴抽出能力をそのまま活かしたい
一方、ファインチューニングは次のような場合に効果的です
・ある程度のデータが確保できる(数千例以上)
・ドメイン特化の高い精度が必要
・十分な計算リソースがある
・事前学習済みの知識を基盤としつつ、特定タスクに最適化したい
・最終的な性能が重視される本番環境向けモデルを開発する
【比較表】転移学習とファインチューニングの特徴まとめ

前章で詳しく解説した転移学習とファインチューニングの違いを、ここでは一目で比較できるようにまとめます。
プロジェクトの要件に合わせて最適な手法を選択する際の参考にしてください。
技術的特徴の比較
転移学習とファインチューニングの主な技術的特徴を比較すると、以下のような違いがあります。
比較項目 | 転移学習 | ファインチューニング |
---|---|---|
パラメータ更新範囲 | 事前学習モデルのパラメータは固定し、新たに追加した層のみを更新 | 事前学習モデルを含むモデル全体または一部のパラメータを更新 |
学習プロセス | 特徴抽出部分は再利用し、分類部分のみを新規学習 | 特徴抽出部分も含めて全体を再調整 |
必要な計算リソース | 少ない(一般的なPCでも可能なケースが多い) | 中〜大(GPUやクラウドリソースが必要なことが多い) |
実装の複雑さ | 比較的シンプル(モデルの一部を凍結し、新しい層を追加するだけ) | やや複雑(学習率の調整や適切な正則化などの工夫が必要) |
メリット・デメリットの比較
両手法には、それぞれ異なるメリットとデメリットがあります。
項目 | 転移学習 | ファインチューニング |
---|---|---|
メリット | ・少量のデータでも実用的なモデルを構築可能 ・学習が高速で開発が早い ・計算コストが低く効率的 ・過学習のリスクが低い | ・特定タスクへの高精度な適応が可能 ・元の知識を活かしつつ新しいドメインに最適化 ・事前学習モデルよりも高性能を目指せる |
デメリット | ・元のタスクと新タスクの関連性が低いと効果が限定的 ・ドメイン最適化が不十分なことがある ・事前学習モデルの性能上限を超えにくい | ・多くのデータが必要 ・計算負荷・学習時間が大きい ・過学習しやすい ・破滅的忘却のリスクがある |
どのような場合に選ぶべきか
プロジェクトの特性に応じて、適切な手法を選択するためのガイドラインを以下に示します。
転移学習を選ぶべき場合
・利用可能なデータが極めて少ない(数百例以下)
・開発期間が短く、迅速にプロトタイプを作成したい
・計算リソースが限られている(専用GPUがない環境など)
・事前学習モデルと新しいタスクの関連性が高い
・基本的な推論性能で十分である
例えば、一般的な画像認識モデルを使って少量の商品画像を分類するシステムや、事前学習済み言語モデルを使って特定の文書分類を行う場合などに適しています。
ファインチューニングを選ぶべき場合
・ある程度のデータセットが確保できる(数千例以上)
・最終的な精度が非常に重要である
・十分な計算リソースと開発期間がある
・特定ドメインへの高度な適応が必要
・事前学習モデルの表現能力を超える性能を目指している
医療画像診断や専門分野の文書生成など、高い精度が求められる本番環境での利用や、事前学習モデルとはやや異なるドメインでの応用に向いています。
ハイブリッドアプローチ 実際のプロジェクトでは、まず転移学習で迅速にプロトタイプを構築し、その後データを増やしながらファインチューニングに移行するという段階的アプローチも効果的です。これにより、開発初期の速度と最終的な性能のバランスを取ることができます。
関連技術:蒸留(ディスティレーション)との比較

転移学習とファインチューニングに加えて、もう一つ知っておくべき重要な技術が「蒸留(ディスティレーション)」です。
この章では、蒸留の基本的な仕組みと、これまで説明してきた技術との関係性を解説します。
蒸留の基本メカニズムと特徴
蒸留(Knowledge Distillation)とは、大規模で複雑な「教師モデル」の知識を、小規模な「生徒モデル」に伝達する技術です。例えるなら、熟練の教師が持つ知恵を若い生徒に効率的に伝授するようなイメージです。
蒸留の主なメカニズムは以下のとおりです。まず、すでに高い性能を持つ大規模な教師モデル(Teacher Model)を用意します。次に、より小さな構造の生徒モデル(Student Model)が教師モデルの出力を模倣するよう学習させます。ここで重要なのは、単に最終的な答え(ハードターゲット)だけでなく、教師モデルの中間出力や確率分布(ソフトターゲット)も学習することです。
ソフトターゲットには教師モデルの「迷い」や「確信度」といった微妙な情報が含まれており、これを活用することで生徒モデルは単純な構造ながらも教師モデルに近い判断ができるようになります。結果として、計算量やメモリ使用量を大幅に削減しつつ、高い性能を維持したモデルを作成できます。
転移学習・ファインチューニング・蒸留の違い
これら三つの技術は目的と手法に明確な違いがあります。
転移学習の主な目的は「既存の知識を再利用して新しいタスクに適用すること」です。事前学習モデルの大部分は変更せず、新しい層を追加して学習します。
既存知識の転用が主眼であり、モデルサイズは基本的に大きくなります。
ファインチューニングの主な目的は「事前学習モデルを特定タスクに最適化すること」です。モデル全体のパラメータを調整して特定領域での性能を高めます。モデルサイズは基本的に維持されます。
一方、蒸留の主な目的は「大きなモデルの知識を小さなモデルに凝縮すること」です。教師モデルと生徒モデルは別々の構造を持ち、生徒モデルは教師の振る舞いを真似るように学習します。結果として、モデルサイズは小さくなります。
データの扱い方も異なります。転移学習とファインチューニングは主に教師あり学習のデータセットを使用しますが、蒸留ではラベルなしデータでも教師モデルの出力を使って学習できる点が特徴的です。
各技術の長所と活用シナリオ
それぞれの技術には適した活用シナリオがあります。
転移学習は、以下のような場合に特に有効です
・ラベル付きデータが極めて少ない領域での応用
・計算リソースを節約しながら迅速にモデルを開発したいとき
・一般的な特徴抽出能力を活かせる分野(例:一般物体認識から特定物体認識へ)
ファインチューニングは、次のようなケースで真価を発揮します
・特定ドメインでの高い精度が必要な場合
・十分なラベル付きデータと計算リソースがある場合
・事前学習済みモデルの能力を超える表現力が求められるとき
蒸留は主に以下のシナリオで活用されます
・モバイルやエッジデバイスなど計算リソースが限られた環境へのデプロイ
・推論速度の高速化が必要な実用システム
・大規模モデルでコスト面や環境面での持続可能性を考慮する場合
・アンサンブル学習の結果を単一モデルに集約する場合
実際のプロジェクトでは、最初に大規模モデルをファインチューニングして高精度化し、その後蒸留を適用して軽量化するという組み合わせアプローチも効果的です。これにより、精度と実行効率のバランスを取ったモデル開発が可能になります。
状況別:転移学習とファインチューニングの使い分け方

理論的な違いを理解したところで、実際のプロジェクトではどのように使い分ければよいのでしょうか。
この章では、具体的な状況に応じた最適な選択方法を解説します。プロジェクトの制約条件や目標に合わせて、最適な手法を選ぶ参考にしてください。
データ量が少ない場合の最適な選択
データ量が少ない状況は、AIプロジェクトでよく直面する課題です。
特にラベル付きデータが数十〜数百例程度しかない場合は、転移学習が最適な選択となります。
極少量のデータでは、事前学習済みモデルのパラメータを凍結して転移学習を行い、過学習を防ぐことが重要です。例えば、医療画像診断など専門性の高い分野では、一般的な画像認識モデル(ResNetやEfficientNetなど)の主要部分を凍結し、最終層のみを学習させる方法が効果的です。
データ拡張(Data Augmentation)との組み合わせも有効戦略です。画像回転、反転、明るさ調整などの変換を加えることで、限られたデータセットを人工的に増やせます。また、事前学習モデルが学習したドメインと新しいタスクのドメインの類似性も重要な判断要素となります。両者の類似性が高いほど、少ないデータでも良好な結果が得られやすくなります。
リソース制約がある環境での意思決定
計算リソースや開発期間に制約がある場合、効率的な選択が求められます。
ハードウェア制約が厳しい場合(一般的なPCやクラウドの低スペックインスタンスなど)、転移学習が実用的な選択となります。
特に大規模なモデル(BERTやGPTなど)をファインチューニングするには高性能なGPUが必要ですが、転移学習なら一般的なハードウェアでも実施可能です。
開発期間が短い場合も、転移学習から始めるのが効率的です。数時間から1日程度で基本的なモデルを構築できるため、迅速なプロトタイピングが可能です。例えば2週間以内に顧客の文書分類システムを構築する場合、事前学習済み言語モデルの転移学習で基本機能を迅速に実装します。その後、時間の余裕があればファインチューニングで精度を高めていくアプローチが効果的です。
クラウドリソースのコスト効率も考慮すべき点です。GPUインスタンスは高額なため、転移学習でプロトタイプ検証を行い、本格的なファインチューニングは、必要性が確認できてから実施するステップワイズなアプローチが費用対効果に優れています。
モデル精度と開発速度のバランスを取る方法
多くのプロジェクトでは、モデル精度と開発速度のトレードオフが発生します。
効果的なアプローチとして、「段階的改善戦略」があります。まず転移学習でベースラインモデルを素早く構築し、そのパフォーマンスを評価します。この段階で要件を満たせば、その状態でデプロイも可能です。満たせない場合は、重要な層を選択的に解凍(unfreezing)してファインチューニングを行い、徐々に精度を向上させていきます。
このアプローチの利点は、早期に動作するモデルが得られることで、ステークホルダーからのフィードバックを基に改善方向を調整できる点です。例えば製品レビューの感情分析システム開発では、まず転移学習で基本的な分類モデルを構築します。その結果を確認した後、特定の製品カテゴリやニュアンスの捉え方を改善するためにファインチューニングを行います。このような段階的アプローチが効果的です。
ビジネス要件と照らし合わせながら「十分な精度」を定義することも重要です。完璧なモデルを目指すよりも、実用的な価値を早期に提供できるレベルを見極め、継続的改善のサイクルを回すことが現実的なプロジェクト進行につながります。
プロジェクト目標に合わせた選択フロー
プロジェクトの性質に応じた選択フローを以下に示します。これを参考に、自分のプロジェクトに最適な選択をしましょう。
1.開発フェーズの特定
・概念実証(PoC)/プロトタイプ段階:転移学習を優先
・製品開発/本番環境向け:ファインチューニングを検討
・実運用環境への最適化:ファインチューニング後に必要に応じて蒸留を適用
2.リソースとデータの評価
・少量のデータ(〜数百例):転移学習が最適
・中量のデータ(数百〜数千例):転移学習からスタートし、結果に応じてファインチューニングを検討
・大量のデータ(数千例以上):ファインチューニングの恩恵を受けやすい
3.ドメイン特性の考慮
・一般的なドメインに近い場合:事前学習モデルの知識が直接役立つため、転移学習でも高い性能が期待できる
・特殊なドメイン(専門用語や特有の表現が多い):ファインチューニングで、ドメイン適応を行う価値が高い
4. 将来的な拡張性の検討
・短期的なソリューション:転移学習で迅速に構築
・長期的に発展させるシステム:段階的にファインチューニングを適用し、継続的に改善
たとえば、製造業での欠陥検出システム開発を例に考えると、まず一般的な画像認識モデルを用いた転移学習で基本システムを構築し、実環境でのテスト結果を評価します。次に、特定の製品や欠陥パターンの検出精度を高めるためにファインチューニングを適用。最終的に、工場の端末でリアルタイム処理するために蒸留を使ってモデルを軽量化するという流れが考えられます。
実装ガイド:Python での転移学習とファインチューニング

理論を理解したところで、実際にPythonを使って転移学習とファインチューニングを実装する方法を見ていきましょう。
ここでは、TensorFlowとKerasを使った実装例を紹介します。
転移学習の基本的な実装手順とコード例
転移学習の実装は、大きく分けて次のステップで行います。事前学習済みモデルのロード、モデル構造の一部凍結、新しい層の追加、そして学習と評価です。
以下に、画像分類タスクを例にした基本的な実装を示します。
python
import tensorflow as tf
from tensorflow.keras.applications import ResNet50
from tensorflow.keras.layers import Dense, GlobalAveragePooling2D
from tensorflow.keras.models import Model
# 1. 事前学習済みモデルのロード(ImageNetで学習済みのResNet50)
base_model = ResNet50(weights=’imagenet’, include_top=False, input_shape=(224, 224, 3))
# 2. 基本モデルの層を凍結(パラメータを固定)
for layer in base_model.layers:
layer.trainable = False
# 3. 新しい分類層の追加
x = base_model.output
x = GlobalAveragePooling2D()(x)
x = Dense(256, activation=’relu’)(x)
predictions = Dense(10, activation=’softmax’)(x) # 10クラス分類の場合
# 4. 新しいモデルの定義
model = Model(inputs=base_model.input, outputs=predictions)
# 5. モデルのコンパイル
model.compile(optimizer=’adam’, loss=’categorical_crossentropy’, metrics=[‘accuracy’])
# 6. 学習(新しく追加した層のみが学習される)
model.fit(train_data, train_labels, epochs=10, batch_size=32, validation_data=(val_data, val_labels))
このコードでは、ResNet50の全層を凍結し、その上に新しい分類層を追加しています。
学習時には追加した層のパラメータのみが更新され、元のResNet50のパラメータは変更されません。これが転移学習の基本的な実装です。
ファインチューニングを実装する際のステップとコツ
ファインチューニングでは、事前学習済みモデルの一部または全体のパラメータも更新します。
効果的なファインチューニングのためには、適切な学習率設定と層の選択的解凍が重要です。
以下に、先ほどのコードを拡張したファインチューニングの例を示します。
python
# 転移学習の実装後、ファインチューニングのステップに進む
# 1. 一部の層を解凍(下位層は凍結したまま)
for layer in base_model.layers[-30:]: # 上位30層だけを解凍
layer.trainable = True
# 2. 低い学習率で再コンパイル(既存の重みを大きく崩さないため)
model.compile(
optimizer=tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=0.0001), # 低い学習率を使用
loss=’categorical_crossentropy’,
metrics=[‘accuracy’]
)
# 3. 微調整のトレーニング(少ないエポック数で)
model.fit(
train_data, train_labels,
epochs=5,
batch_size=16, # より小さいバッチサイズを使用
validation_data=(val_data, val_labels)
)
ファインチューニングでの重要なポイントは
・学習率を小さく設定する(通常は1e-4〜1e-5程度)・バッチサイズを小さめに設定して勾配の安定性を高める
・層を選択的に解凍する(通常は下位層より上位層を優先)
・早期終了(Early Stopping)などの正則化テクニックを適用する
これらの工夫により、事前学習済みモデルの知識を維持しながら、特定タスクへの適応を効果的に行えます。
実装結果の評価と性能向上のヒント
モデルの実装後は、適切な評価と継続的な改善が重要です。評価には精度だけでなく、混同行列(Confusion Matrix)やF1スコアなども活用し、クラス不均衡などの問題を検出しましょう。
python
# モデル評価の例
from sklearn.metrics import classification_report, confusion_matrix
# テストデータでの予測
y_pred = model.predict(test_data)
y_pred_classes = np.argmax(y_pred, axis=1)
y_true = np.argmax(test_labels, axis=1)
# 詳細な評価
print(classification_report(y_true, y_pred_classes))
print(confusion_matrix(y_true, y_pred_classes))
性能向上のための主なヒント
・ハイパーパラメータの調整:学習率、バッチサイズ、解凍する層の数などを系統的に試す
・データ拡張の強化:より多様な変換を適用してデータの多様性を増やす
・より適切な事前学習モデルの選択:タスクに類似したデータセットで学習された事前学習モデルを探す
・アンサンブル手法:複数のモデルを組み合わせて予測精度を向上させる
また、過学習の兆候が見られる場合は、ドロップアウト層の追加や正則化パラメータの調整、早期終了の実装などが効果的です。
最後に、どのような手法を選んでも、実験を繰り返し、結果を丁寧に分析することが成功への近道です。モデルのパフォーマンスだけでなく、推論速度やリソース使用量など、実運用を見据えた総合的な評価を行いましょう。
まとめ:転移学習とファインチューニングを使いこなして効率的なAI開発を実現しよう

本記事では、転移学習とファインチューニングの基本概念とその違いを解説しました。
転移学習は事前学習済みモデルの知識を再利用し新しい層のみを学習させる手法で、少ないデータと計算リソースで迅速に結果を出せる強みがあります。一方、ファインチューニングはモデル全体を微調整し、特定ドメインでの精度向上を実現します。
プロジェクトの状況に応じて、データ量やリソース制約、求められる精度を考慮した使い分けが重要です。実際のプロジェクトでは、初期段階で転移学習からスタートし、徐々にファインチューニングへ移行するハイブリッドアプローチも効果的です。
これらの技術を使いこなすことで、限られたリソースでも高品質なAIモデル開発が可能になります。

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この記事でわかることを1問1答で紹介
Q:転移学習とは何ですか?
A:事前学習済みモデルの知識を再利用し、新しいタスクに応用する手法で、少量のデータでも高精度なモデルを構築できます。
Q:ファインチューニングとは何ですか?
A:事前学習済みモデルのパラメータを一部または全体的に調整し、新しいタスクに最適化する手法です。
Q:転移学習とファインチューニングの違いは何ですか?
A:転移学習は元のモデルを固定して新しい層だけ学習させるのに対し、ファインチューニングは元のモデルも含めて調整し、より高精度な適応を目指します。
Q:転移学習とファインチューニングはいつ使い分けるべきですか?
A:データ量が少なく計算リソースも限られている場合は転移学習、多くのデータと高い精度が求められる場合はファインチューニングが適しています。
Q:蒸留(ディスティレーション)はどんな技術ですか?
A:大規模なモデルの知識を小さなモデルに圧縮して伝える技術で、推論の高速化や軽量化が可能になります。
Q:転移学習・ファインチューニング・蒸留はどう使い分ければいいですか?
A:開発初期に転移学習でプロトタイプを作成し、本番ではファインチューニングで精度を高め、最終的に蒸留で軽量化する段階的な活用が有効です。
Q:Pythonでの実装はどのように進めればよいですか?
A:TensorFlowやKerasを用い、事前学習モデルをロードして層を凍結し、新しい出力層を追加して学習、必要に応じて一部層を解凍してファインチューニングを行います。